cinemananakoの日記

映画と芝居と本とアイドル好きな酒飲みおばはんの日記

「雑誌の人格」「人質の朗読会」「マザーズ」「家族喰い」

今月の読書。

雑誌の人格

雑誌の人格

5/17読了。

小学生の時は、雑誌を作る人になりたかった。
それぞれの雑誌を「人」に例えて、この雑誌読んでる人は例えばこういう性格で、こういう生活で、、、をひたすら書いてるだけの本ですが、これがすこぶる楽しい。
特に小難しいデータに基づいてるわけでもなく、筆者の個人的な人物観察と、読者アンケートの結果、そして徹底的な雑誌の読み込みだけで、こんなにも鮮やかな「人物像」が見えてくるなんてステキ。
微妙にダサかったりもっさりしてたりするイラストも秀逸。
どの雑誌の人格も、ポンと膝を打つ納得ぶり。居住地などのデータも、納得しすぎて吹いたわww
ぜひ「パート2」を出して欲しい。その際は「ダ・ヴィンチ」「日経エンタ」なんかの読者の特定しづらいのもぜひ。

人質の朗読会

人質の朗読会

5/19読了。

とある南米の山奥で事件に巻き込まれ、人質となった、そしてその結果命を落とした8人の、それぞれの物語を綴った小作品で構成されています。短編集とも言える。
最初から、それぞれの物語の主人公がこの世にいないことを分かった上で読む形になります。
日常のちょっとした、けれどその人自身には、人生を振り返ったときに一番に思い浮かぶほどに印象的だった出来事たち。
それは、決して一般的な意味での「ドラマチック」でも、「衝撃的」でもなんでもなく、ほとんどすべてのストーリーにおいて、主人公自身の身の上そのものに、劇的な変化があるわけでもない。*1
なんでもないけれど大切な、印象深い思い出が、それを語る人物のイメージをこんなにも鮮やかに浮き上がらせることにハッとして、そして、その浮かび上がった日常の鮮やかなイメージのすべてが、すでにこの世にないものであることに泣きました。
花束のおじさんは、どんなスーツを入れてあげたのだろう。

マザーズ

マザーズ

5/29読了。

子育ての、つらかった時期を思い出して胸が苦しくなった。著者自身の育児体験に基づいてるから、どれもこれもがとてもリアルで、言葉の通じない小さな存在の重さと、重くて苦しいのに、なぜか感じる強烈な愛おしさを思い起こしては涙ぐみながら読みました。
この小説に出て来るママたちは、ヤク中の小説家、不倫するモデル、虐待する普通の主婦。小説家やモデルなんて、自分のいるところとはかけ離れているし、幼稚園に入れる前から、こんなに気軽に遅くまで保育園やシッターに預けるなんてこと、わたしにはとても出来なかったけど、この人たちが感じてる育児の「負」の面や、夫へのいらだちなど、わたしが感じたことそっくりそのままな記述も出て来た。娘はもう中学生だから、あの頃の切羽詰まった状況はもう過去のことだけど、あのときの自分もかなりの「密室育児」だったよな…と思いました。
でも、これを読んで「子育てって辛そう」とは思ってほしくない。自分の体から出て来た小さな存在に、これまでに出会ったことのない幸福を与えてもらったことは確かだから。
赤ちゃん時代が終わったら終わったで、また別の大変さがあることも事実だけど、あの頃、なんで泣いてるのか、なにをしゃべろうとしているのか、必死で何を訴えているのかまったく理解できなかった子どもが、今は一緒に映画観に行ったりアイドルの話で盛り上がったりできる相手に成長したことを、心から喜びたい気持ちにさせてもらった。

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

5/31読了。

怖かった。
登場人物の多さと人間関係の複雑さが尋常じゃなく、何度も家系図を確認しながら読んだけど、途中すっきりとは把握しきれない部分もあった。
これまで読んだり見たりしたものの中にはなかった話もたくさんあり、著者が時間をかけて自分の足でつかんだ情報に基づくルポで、非常に読み応えがありました。
最初から勝てる相手だけを選んで、恐怖心を植え付けて家族関係をめちゃくちゃにし、絞れるだけ金を搾り取る…それでも「大したことだとは思っていない」犯人たちも怖いけど、「民事不介入」の原則を振りかざされ、助かるはずだった人が助からなかった状況に体が震えました。恐怖と、怒りで。
容疑者の自殺は、捕まったことへの絶望ではなく、作り上げた「仮想家族」が崩壊したから、という著者の見方にわたしも同感です。高村薫さんは、まだこの事件を取材されているだろうか。彼女が見たこの事件について、ぜひ読んでみたいと思います。

*1:各話最後まで読んで、その後の主人公の変化(あるいは無変化)を知るわけですが